蓮村枝履子(はすむらえりこ)
1963年生まれ。
東京都在住。18年間の出版社勤務を経てフリーランスに。
数々の月刊総合女性誌で得た経験をもとにビューティ&ヘルスアドバイザーとして、また、フリーの編集者として活動する。
心身の健康と美の探求、TM瞑想がライフワーク。
夫と息子、猫の4人(?)家族。







ゴワッゴワッゴワッゴワッ。ゴワッゴワッゴワッゴワッ。ゴワッゴワッゴワッゴワッ。
うーむ、これは一体…。いよいよ施術チェアに横たわり米澤式健顔が始まったのですがなにか妙な感じです。ゴワッゴワッゴワッゴワッ。
目を閉じているために確認はできないのですが、大量のクリームが顔の上に載せられてそれを全体に伸ばしてからマッサージ的な動きが始まったようでした。
そのクリームはあっという間にゴワゴワと重くなり、顔の上で重苦しくこねられている感じなのです。
うーむ。この手のサロンでいきなり大量クリーム攻撃とは予測不可能であった。
いまどきはどこのサロンもアロマオイルを使ったりしてお洒落な感じなのに、これじゃまるで昔母が使っていたコールドクリームみたい。しかもこの量を一気に顔に載せてしまうとは…。
ハッ! もしやこの方は失敗してクリームを載せ過ぎてしまったのでは!? そういえばさっきのあの硬い表情… とても緊張されていた証拠?
このままこのゴワゴワ感が続き、そして終わってしまったら……。
き、気まずい。せっかくのサロン体験の後にゴワゴワでしたね、としか言えないのは激辛い。
う、うーうーうー。と、誠に勝手なことを考えながら一人もがき苦しみ始めたそのときでした。
突然このゴワゴワのクリームが魔法のように滑らかな感触へとスーッと変化したのです。
その滑らかなクリームは肌の上をまるで優雅な旋律を奏でる波のように動き出しました。
それはそれは心地良い感触にしばしうっとり。
時々、ゴッドハンドと言われるエステティシアンの方がいらっしゃいますが、こんなにも繊細で美しい動きを完璧にこなす手技はわたしにとって正直初めてでした。
他のどんなサロンとも比較しようがないまさに特別なテクニックです! これは失敗どころかすごいものに出会ってしまったと確信しました。そしてふとあることに気づいたのです。先程のゴワゴワした感触から、この滑らかで柔らかい感触に変化するまでずっと感じていたのはひたすらクリームの動きだけで、それを行っているはずの施術者の手の印象がまったくなかったのです。
えーー!? どういうこと? これってなにー?
と心の中で叫び出したそのとき! 今度はフッと一瞬にして滑らかなクリームが消えてしまい、肌の上にはオイルと手の感触だけが残されたのです。あのゴワゴワと大量にあったはずのクリームは跡形もなく消えていました。
こ、これは?と驚いているうちに手が止まり「終了致しましたので洗顔をお願いします」と声が聞こえました。
うっとりとびっくりの中に埋没しているわたしを女性スタッフが促し、洗面台の前に立たされました。
サロンとは寝っぱなし、というイメージを強くもっていたわたしは思わず
「え? 立つのですか?」「自分で洗顔ですか?」と聞いてしまいました。
「はい。そうです」という優しい声も、まだまだ椅子でぐったりと寝ていたかったわたしにはぴしゃりと容赦なく響きます。
渋々洗面台の前に立つと、手のひらに洗顔料が置かれ、それを軽く伸ばしてから円を描くように優しく素早く洗うように指導を受けながらダブル洗顔をしました。
最初はうーん、しんどい、と思っていたのですが、実際に自分で洗顔してみれば、なるほどこれは自分でするのがいちばん合理的だし、さっぱりと気持ちが良いと感じられました。
もう一度施術チェアに座ると、女性スタッフが化粧水や乳液を手のひらで軽く叩き込むようにしてケアする入滴という手法で仕上げてくれました。こうするときれいになった毛穴から肌の奥へと化粧水が入って肌を引き締めてくれるそうです。
「終了しましたのでメイクをこちらでどうぞ」。鏡の前に座ってからまわりを見回しましたが、さっきマッサージしてくれたはずの男性の姿は見当たらず、やけにあっさりとした雰囲気です。
あの繊細で優雅でさえあったマッサージは本当にあの男性がしてくれたものだったのだろうか…
男性の手があんなにも軽く柔らかく優しいケアをするなんて心底びっくり…
などとぼんやりと考えつつも、とにかくメイクしましょ、と、鏡を見てあれ? と動きが止まってしまいました。
毎日鏡で見ている顔のなにかが違っていたのです。